第9期 RMUリーグ最終節 観戦記

『いかつい男の臆病な魅力』 第9期RMUリーグ最終節 観戦記
鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
鈴木 聡一郎


【怯える男】
松ヶ瀬は怯えていた。
いかつい見た目からは想像もできないほど、自信がなさそうに答えたのである。
「そりゃ、優勝する確率は高いよね。でも、打ってるほうは何ポイント持ってても不安だよ。おれにとっては、これを勝つと勝たないのでは全然違うしね」
RMUリーグ最終節から1週間前、私と松ヶ瀬が参加している研究会にて、RMUリーグの話になったときのこと。
見ている私たちが、「こんなこと言われると嫌かもしれないけど、優勝確率は相当高いよね?」と尋ねたことに対する答えだった。


最終節4半荘のみを残し、2位の多井と150ポイントもの大量リードがある。
同一メンツの最終節は優勝を目指した見逃しなどが横行するため、通常トップ者が苦しくなるが、3位・4位の岡澤・阿部が離れすぎたため普通に打つと言っている以上、松ヶ瀬の逃げ切り確率は相当に高いように感じられた。

それほど有利な状況でも、松ヶ瀬にあるのはただの恐怖。
それがタイトルを目の前にした選手のリアルな心境である。


松ヶ瀬が試合当日にこんな奇抜な髪型でやってきた気持ちも、なんとなくわかる。
恐怖を少しでも和らげるよう、戦う気持ちを忘れぬよう、自分を奮い立たせるために準備してきたのだろうと容易に想像がついた。

▼▼▼1回戦:松ヶ瀬、順風のスタート▼▼▼
おそらく、こういう状況で大事なのが入り方だ。
そこを間違えると、修正に時間がかかりそうなイメージがある。


開局、松ヶ瀬はここから打とした。
少々手が縮こまりすぎていないかとも心配したが、これは意外と妙手だと気付く。
通常、を残して広く受けるのだろうが、この捨て牌・ポイント状況では、メンツ手として状況の良いを当てにし、が先に引けないときにはの重なりを軸にチートイツにすればよい。
まっすぐにリーチをかけるつもりもないのだから。


結果、当てにしたを頼りにテンパイを組み、危なげなく流局時テンパイに持ち込んだ。
打てている。
そう感じた。

その矢先、松ヶ瀬が多井から3900直撃に成功する。


前巡のポンテン時、通常ならばではなく待ちに受けるところ、3枚見えを頼りにカンに受けた。
という攻撃面もあるが、それよりは多井の現物を持っておきたかったという守備的な面が強いだろうか。
2フーロして前に出るも、最後にはきっちり退路を確保している。
普段から守備的な松ヶ瀬が、さらに抜け目なく守備意識を切らしていないところを見て、「ああ、こりゃ今日の松ヶ瀬は手が付けられないな」と早くも思ってしまった。

すると、次局のオヤ番でもを1枚目からポン。


マンズのホンイツへ向かうのだが、真っすぐに突き進まないのが松ヶ瀬流。


次巡にをツモると、を先打ちしていく。
の2度受けをフォローする牌だが、そのの2度受けがそもそもうれしくない。
ならばと、松ヶ瀬はを撒き餌に使う。
先打ちして、マンズホンイツをぼかすとともに、を出やすくした。
これにハマったのが阿部。


この手牌からを抑えていた阿部だが、が打たれたのならば、ぐらい試し打ちしてみたくなる。
すると、これにポンの声がかかるのだからたまらない。
そして、優勝決定とも思われる6000オールが飛び出した。


順風。そして、打てている。

オーラス、オヤだった多井は、奇跡の逆転を目指してリーチをかける。


申し分ないだ。
しかし、追いかけリーチの岡澤にで8000放銃。


松ヶ瀬とのトップラスを決めなければならないところ、逆に多井がトップラスを食らってしまった。

「なんでぼくの、アガれないんだよお!!なんて、超薄いでしょ?」
多井が大声で悔しがりながら控室に帰ってくる。
ご名答。追いかけリーチの時点で多井5枚対岡澤2枚であった。
「ヤマにしかないでしょー!あれぐらいアガらせてよー!」
本当ににぎやかな男である。
いや、これはさすがにうるさいレベルだ。
脚色なく言って、選挙最終日イベント「最後のお願い」程度のデシベル感には達しているだろう。
結果、最後のお願いにやってきた多井候補者の最終日は、苦しい幕開けとなった。

▼▼▼2回戦:諦めの悪い男・多井▼▼▼
「ぼくはまだ優勝だけを目指します」
多井はそう言い切った。
諦めの悪い男である。
しかし、そうやって数々の奇跡を起こしてきたのも事実。
きっと多井の頭の中では、今こんなセリフが流れている。
「おれは誰だ?・・・おれは誰だって聞いてんだよ!・・・おれは、諦めの悪い男・三井寿!」
残念、多井隆晴である。


3回で240ポイント差を詰めるには、1回で80ポイント。つまり5万点差のトップラスを決める必要がある。
スリーポイントシュートのような長打が必要なのは元より、着順操作も必要な超難関だ。

しかし、起家を引いた多井は、いとも簡単に長打を重ねた。


まずは4000オールで先制すると、続けざまに2発目の4000オール。


これでポイントは概ねクリアした。
後は着順操作である。

南2局、その瞬間は急に訪れた。
阿部がマンガン確定のオヤリーチ。


が3枚、が1枚切れた苦しいリーチだが、追いかける立場としては十分だ。
これに対して長考に入った松ヶ瀬。


を切ってリーチといった。
を切ってダマテンという選択肢もあるが、阿部のこのオヤは、多井が簡単に流さない以上、松ヶ瀬が向かっていかない限りなかなか落ちない恐れがある。
そこで、勝算のある手がきたところで1度勝負に出たわけだ。
ここに、岡澤も参入し、3軒リーチとなる。


すると、3軒リーチに挟まれた多井が手を止めた。


アンパイならがある。
この長考は、阿部への差し込みを考えてのものだ。
多井にとっての最悪は、松ヶ瀬がアガること。
しかし、各順位間の順位点が1万点しかないこのルールで、オヤリーチに差し込むなど、本当に見合っているのだろうか。
多井が出した結論は打
松ヶ瀬と岡澤には通り、当たるとすれば阿部だけ。
そして、仮に阿部が待ちになっていた場合、このを打たなければ阿部のアガリはほぼない。


多井、渾身の12000犠打。
聞いたことがない。順位点10000を得るために12000を投資してるのだ。
2000の損失ではないか。
ただ、松ヶ瀬にアガられていたときのことを考えれば、これが利益に転ずるというのが多井の投資感覚。
多井は言った。
「5800ぐらいが一番よかったけど、12000なら開き直れると思った」。
これで松ヶ瀬とのトップラスが完成。
あとはこのままゴールテープを切るだけだ。

しかし、松ヶ瀬も黙っていない。


ホンイツテンパイを果たした松ヶ瀬は、オヤの岡澤が放ったをなんと見逃したのである。
確かに、この半荘に限って言えばアガる意味はあまりないが、素点で3.9ポイントは小さくない。
それでも、松ヶ瀬はこれを見逃し、多井からの直撃を狙った。
松ヶ瀬が完璧な勝ちを求めたのだ。


ところが、結果は最悪。早いテンパイを果たしていた多井が、マンガンのツモアガリ。松ヶ瀬は大きなトップラスを決められてしまった。


会心のトップラスを決め、どんなドンチャン騒ぎで控室に帰ってくるかと思った多井が、思いのほか静かに帰ってきたので拍子抜けしてしまった。
そういえば、こういう多井をどこかで見たことがある。
過去に思いを馳せると、2016年RTDリーグ決勝1日目だということにすぐ気づく。
その日、多井は決勝8回戦中の前半4連勝を決めた。
4連勝した直後、控室に戻った多井がすごく気まずそうに黙っていたのを思い出す。
そう、多井は勝ったときに騒げないのだ。

思うに、麻雀の強者とは、勝ったときには口をつぐむ。
負けている者の気持ちがわかるからだ。
だから、勝ったときの多井は、意外なほどに静かなのである。

一方の松ヶ瀬。
こちらはいつも通り静かだ。
トップラスを決められたとはいえ、2回を消化して本日開始時の数字に戻っただけなのだから、開始時より有利になっているのには違いない。
テーブルに並んでいる替用のいかついメガネ2つに視線を落とすと、今かけているメガネを外し、2つのうち1つと取り替えた。
聞けば、そうやって気分を変えるのだそう。

選手たちが対局室に向かった後、控室のテーブルに並ぶ2つのメガネは、片方が入れ替わってもやはり両方いかつかった。
仲良く並んだ2つのメガネを見て思う。
こんないかついメガネ、いったいどこで売っているんだろう。

▼▼▼3回戦:全くブレない松ヶ瀬▼▼▼
あと2回トップラスを決めれば逆転の目がある多井。今回も起家でリーチをかけていく。


これに対し、を仕掛けていた松ヶ瀬。


現物はしかないが、中途半端になどを打たず、きっちりを抜いた。
さあ、ここからが試練の刻。


2巡後、早くも現物が切れた。
が4枚見えたこともあり、トイツのに手がかかりそうなところだが、松ヶ瀬はをツモ切った。
松ヶ瀬は言う。
は選択肢になかった」
これほどまでに、説得力のある言葉があるだろうか。
確かに、多井のリーチにはターツ落としが入っておらず、愚形も想定できる。
しかも宣言牌はで、からのシャンポンもある。
とはいえ、この手詰まりの状況で2巡凌げるノーチャンスの牌に手がかからない打ち手がいるのだ。
そして、その打ち手は「が選択肢にない」と明確に答える。
この守備センスはなんなのか。
松ヶ瀬は、大ピンチを凌ぎ、流局に持ち込んだ。

すると、今度は多井に選択が訪れる。


前巡にをポンしたマンズホンイツ模様の岡澤に対し、をアシストするかどうかの判断だ。
多井としては、松ヶ瀬のオヤ番ということもあり、岡澤にはアガってほしいため、鳴かれてもいい。
しかも、マンズが余っておらず、テンパイしていないことの方が多いだろう。
また、仮にこのが当たったとしても、3900程度の失点で済みそうだ。
以上から、多井はツモ切りを決断。
しかし、これに岡澤からロンがかかる。


しかも、打点は予想外の8000。
これで予期せぬ失点をした多井だったが、なんとか松ヶ瀬をラスにしたまま、トップが狙える位置でオーラスを迎えた。


すると、岡澤が強烈な5面張リーチ。
続いて、松ヶ瀬もでリーチに出る。


多井もウラ次第でトップになるリーチをかけていった。


しかし、3者の願いは1人分も実らず流局。
多井の優勝が現実的には消滅した。



さて、多井控室劇場もついに最終幕。
諦めてはいないが、さすがに負けを覚悟している多井が松ヶ瀬に言った。
多井「お前、勝ったら日本シリーズとか色々あるんだからがんばれよな」
松ヶ瀬「まあ、そういうのは終わってから・・・」
静かにそうつぶやきながら、松ヶ瀬は席を立ってしまった。
残された多井は苦笑いしながらつぶやいた。
多井「もう終わってんだよ」

控室に戻った松ヶ瀬が、最初のメガネに再チェンジ。
テーブルには元のメガネ2つが並び、モニターを見つめている。
元のサヤに戻ったメガネたちにやはり聞きたい気分だ。
ちょっと君たち、どこで売られていたのかね。

▼▼▼4回戦(最終戦):慎重な男▼▼▼
最終半荘、ほぼ負けとはいえ、多井は絶対に諦めない。
多井のオヤ番で、岡澤・阿部の2軒リーチを受ける松ヶ瀬。


2人のアンパイを探しに行くなら、片方に通るということになるだろうか。
しかし、前巡に多井がツモ切りで押している。
もしかしたら、多井がテンパイかもしれない。
それならばと、松ヶ瀬は2人に無スジで多井の現物を抜いた。
これが大正解。
多井がの12000テンパイだったのだ。


多井もさすがで、こので松ヶ瀬からが出ないことを悟ると、ツモ切りリーチで打点を高めにいった。
思えば、ここが多井にとってのラストチャンスだった。
しかし、それを阻んだのは松ヶ瀬の抜け目ない慎重さと、阿部・岡澤の終始丁寧だった攻撃のように思う。


阿部はきっちり3面張でリーチしていたし、岡澤もこの3面張だった。


阿部から岡澤への3900で多井のオヤが落ちると、南場は静かに収束へ向かった。


第9期RMUリーグ優勝 松ケ瀬隆弥


弱気にも見えた松ヶ瀬の姿勢は、臆病ではなく慎重という言葉が良く似合う。
いかつい見た目にこの慎重さ。
ギャップがたまらず、魅力的だ。

ギャップといえば、前述の研究会にて、松ヶ瀬はあるものを首から下げていた。
ケータイを下げるような太めのネックストラップの先には、小さなリップクリーム。
松ヶ瀬「えっ、だって、すぐに使いたいじゃん!でも、ポッケに入れるとなくしたりして、代わりの買ったらその瞬間に前のが見つかって2個になったりするじゃん!」
このチャーミングさはなんだろう。
ちょっとかわいすぎてずるいなと思った。

きっと、あのいかついメガネだって、鼻歌交じりに選んでいるのだろう。
そんな松ヶ瀬を想像すると、どうしてもにやけてしまう。
そして、その男は、やはり首から下げている。
リップクリームは元より、何よりも重いRMUの金メダルを下げるためには、確かにその太い首が必要らしかった。

鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)
鈴木 聡一郎


【執筆後記】
観戦記を読んでいただき、ありがとうございました!最高位戦日本プロ麻雀協会の鈴木聡一郎といいます。このたび、初めてRMUリーグの観戦記を担当させていただきました。RTDリーグの観戦記も担当していますので、もしかしたらそちらで知っていただいている方もいるかもしれませんね。
私は、10年以上観戦記者をしていますが、松ヶ瀬さんほど見た目がいかつくも、チャーミングさを併せ持つ選手を知りません。私が松ヶ瀬さんと話すようになったのは、実はわずか1年ほど前なんですが、すぐにその魅力に取りつかれてしまいました。
そんな、いかつくも臆病で、ちょっぴりかわいい松ヶ瀬さんの良さが伝わったらいいなと思い、この観戦記を書きました。いかがでしたか?少しでも伝わっていればうれしいです。
松ケ瀬隆弥という魅力ある選手が、今年RMUの顔として様々な場所で対局することが、今から楽しみでなりません。それを想像したら、やはりにやけてしまうのです。
多井代表や松ヶ瀬チャンピオンを始め、魅力的なキャラクターがたくさん在籍するRMUを、ぜひこれからもよろしくお願いいたします!




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